(下書き)賃貸借契約終了に伴う物件明渡義務と原状回復義務の関係

【結論】

原則、原状回復未履行でも、支配うつれば明渡義務完了。

現実的にも、物件の鍵を返せばひとまず明渡(賃料終了)と扱われ、その後原状回復が行われがち。

但し、明確な特約があれば別論(後記裁判例参照)

 

【例外】

新たな賃貸借の妨げとなったり、賃借人に過大な工事の負担が生じるような、重大な原状回復義務の違背がある場合

->例外的に明渡義務の不履行に当たる場合もありうる

 

【実例】

東京地裁H18.12.28判決

 また原告は,本件不動産にはパーテーションや書棚が撤去されていないから,明渡しがあったとはいえないと主張する。
 しかしながら,上記認定のとおり,本件不動産内のパーテーションや書棚は床等に固定されているものと認められるから,それを撤去することは賃借人の原状回復義務として必要となるが,民法上,借用物の返還義務と原状回復義務は異なるものであり,後者が履行されなければ前者が履行されていない,という関係にはないというべきである。
 この点につき原告は,一般に,事務所の賃貸借契約においては,賃貸人はいわゆるスケルトンの状態で目的不動産を引き渡し,賃貸借契約終了に際しては賃借人が行った内装すべてを撤去して賃貸人に引き渡すのが通例であると主張する。確かに,一般にオフィスビルの賃貸借においては,次の賃借人に賃貸する必要から,賃借人には返還に際して賃貸借契約締結時の原状に回復することまで要求される場合が多いとしても,原状回復義務は目的物返還後に履行することも可能であるから,賃貸借契約において,目的物の返還に先立って原状回復することが定められていれば格別,そうでない限り原状回復義務が目的物返環義務に必然的に先行する関係にあるとはいえない。
 本件賃貸借契約のこの点の定めについてみると,証拠(甲1)によれば,本件賃貸借契約では,「本契約が期間満了もしくは解除等により終了したときは乙(賃借人)は次の各号の定めに従い遅滞なく貸室を明け渡さなければならない。」(16条柱書き)とされ,同条3号は「乙(賃借人)が模様替え等原状を変更した箇所およびこのビルディングの主体または付帯設備に固定した乙所有の物件はすべて撤去し原状に復旧するものとする。」とされており,原状回復義務が明渡義務の内容となっているかのように解される余地がある。しかしながら,そのように解すると,同号によれば,上記復旧工事は,賃貸人又は賃貸人指定の業者が実施することとされているから,賃貸人又は賃貸人指定の業者が必要以上の期間をかけて原状回復工事をした場合にも,その間は明渡し未了となり,賃借人はその間の賃料相当額及び諸経費を負担することになってしまい(同6号),合理的とはいえない。さらに,同条2号には,「乙(賃借人)はその所有の家具,什器等を契約終了後3日以内に搬出して貸室を明け渡すこと」とされており,家具,什器等の搬出をもって明渡しと考えており,明渡しと原状回復を別の内容と捉えているといえる。このように考えると,契約書16条の上記定めは,原状回復が賃借人の負担において行われるべきであり,かつその工事内容は賃貸人側が定めることに主眼があるのであって,原状回復義務を貸室明渡しの内容としたり,明渡義務に先行することまでを定めたものではないと解するのが当事者の合理的意思解釈として相当である。
    結局,賃借人がパーテーション等を撤去して原状に回復する義務と目的物である貸室を返還する義務は別個の義務であり,賃借人が返還したかどうかは,原状回復の有無とは別に検討すべきであるから,前記認定のとおり,平成18年7月末日をもって本件不動産は明け渡されたというべきである。