利用規約の著作物性

東京地判H26.7.30(下線は自分)

 

ウ 原告規約文言について
 (ア) 原告規約文言1ないし59のうち,被告規約文言1ないし59と共通する部分は,これらを個別にみる限り,別紙6に記載のとおり,他に適当な表現手段のない思想,感情若しくはアイデア,事実そのものであるか,あるいは,ありふれた表現にすぎないものというべきであって,直ちに創作的な表現と認めることは困難というべきである。
 したがって,被告規約文言1ないし59と,原告規約文言1ないし59とを個別に対比する限りにおいては,被告規約文言1ないし59はそれぞれ複製又は翻案に当たるものとはいえない。


 (イ) 原告は,原告規約文言全体の著作物性についても主張していると解される(平成26年3月5日付け原告準備書面(1)8,9頁)ので,以下,この点について検討する。
 一般に,修理規約とは,修理受注者が,修理を受注するに際し,あらかじめ修理依頼者との間で取り決めておきたいと考える事項を「規約」,すなわち条文や箇条書きのような形式で文章化したものと考えられるところ,規約としての性質上,取り決める事項は,ある程度一般化,定型化されたものであって,これを表現しようとすれば,一般的な表現,定型的な表現になることが多いと解される。このため,その表現方法はおのずと限られたものとなるというべきであって,通常の規約であれば,ありふれた表現として著作物性は否定される場合が多いと考えられる。

 しかしながら,規約であることから,当然に著作物性がないと断ずることは相当ではなく,その規約の表現に全体として作成者の個性が表れているような特別な場合には,当該規約全体について,これを創作的な表現と認め,著作物として保護すべき場合もあり得るものと解するのが相当というべきである。

 これを本件についてみるに,原告規約文言は,疑義が生じないよう同一の事項を多面的な角度から繰り返し記述するなどしている点(例えば,腐食や損壊の場合に保証できないことがあることを重ねて規定した箇所がみられる原告規約文言4と同7,浸水の場合には有償修理となることを重ねて規定した箇所が見られる原告規約文言5の1の部分と同54,修理に当たっては時計の誤差を日差±15秒以内を基準とするが,±15秒以内にならない場合もあり,その場合も責任を負わないことについて重ねて規定した箇所がみられる原告規約文言17と同44など)において,原告の個性が表れていると認められ,その限りで特徴的な表現がされているというべきであるから,「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号),すなわち著作物と認めるのが相当というべきである。

 そして,被告規約文言全体についてみると,見出しの項目,各項目に掲げられた表現,記載順序などは,すべて原告規約文言と同一であるか,実質的に同一であると認められる(表現上異なる点として,原告規約文言の「当社」が被告規約文言では「当店」にすべて置き換えられている点,助詞の使い方の違い,記載順序を一部入れ替えている箇所(別紙4の番号5,38),表現をまとめている箇所(同別紙の番号36),「千年堂オリジナル超音波洗浄」「千年堂オリジナルクリーニング」を「銀座櫻風堂オリジナル超音波洗浄」「銀座櫻風堂オリジナルクリーニング」としている箇所(同別紙の番号50,52)などがあるが,これらは,極めて些細な相違点にすぎず,全体として実質的に同一と解するのが相当である。また,原告規約文言と被告規約文言の相違点が上記のとおりであることは,被告が,原告規約文言に依拠して,被告規約文言を作成したことを強く推認させる事情というべきである。)。
 したがって,被告は,被告規約文言を作成したことにより,原告規約文言を複製したものというべきである。

 

 

学説的には、よほど単純では無い限り著作物性を肯定する見解が強い?(コンメ等)